昨晩の事。
わたしがお風呂に入っていると、むすめの声が聞こえてきた。
「おとーさんどこかな?どこかなぁ? ギャギャギャ!」
どうやらかくれんぼをしているらしい。
***
余談ですが、むすめは楽しさが最高潮に達すると、
アマゾン熱帯雨林にいそうな怪鳥の鳴声みたいな音(笑い声)を出します。
近い将来、むすめに秘かに恋心を寄せる男児が現れて、
この笑い声が男児の淡い恋心をブッ壊す事があったりするんだろうな...なんて想像をめぐらせて、今日はゆっくり湯船に浸からせていただきましょ。
***
「夫さーんどこー?むすめちゃんは、ここよー」「うわ〜〜ん」
お風呂から上がって身支度をしていると、まだかくれんぼが続行している事と、呼びかけ方を変える程むすめが難儀している事がわかった。
「え〜、まだおとーさん見つからんのぉ?!」
わたしが明るく声をかけると、涙の跡が残るむすめは、ほっとしたようだった。
我が家の隠れる場所の相場はだいたい決まっている。なにしろ狭いのだ。
今思えば、だいぶ知恵がついてきたむすめが見つけられない時点で、
すこし意外だったのだが。
わたしも一緒に探すことにした。
「カーテンの裏かな?」「いないねぇ」
「押し入れの中かな?」「ちがうねぇ」
「ベランダかな?」「ちがうなぁ!」
うーん。あとは...仕事部屋?
何しろあのめんどくさがりの夫である。隠れる気ゼロで深々と椅子に座り、Kindleで電子書籍に読みふけっているいつもの姿が思い浮かんだ。
ここだ!...いない。
ふむ。このあたりから大人のわたしも首をかしげ出す。
となると、天袋?!...ちがう!
えーと、かなりトリッキーな屈葬スタイルにならないと入らないだろうけど、このパンパンになってる物置の中?!...ちがう!
もう一度定番の隠れ場所を見直してみよう。
ベランダを再度隅々までチェックし、考える。
もしかしてベランダを伝って外へ出た?我が家は団地の2階なので、ねんざ覚悟であればできなくはないかもしれないが、むすめとのかくれんぼごときにあまりにもコストがかかりすぎる。この線は薄い。
あ、なんだ玄関から外に出たのか!
玄関へ早歩きで向かったが、夫のカギは帰宅後の定位置のまま。
肝心のドアはドアチェーンも含めきっちりと施錠されたままだった。
これはもしかしたら、私ひとりの力では解決できないケースかもしれない。
「夫、かくれんぼの最中に神隠しか。」
ドアロックされた写真とともにtwitterに投稿することも考えた。物騒な事件の可能性も。
努めて明るくむすめに声をかけながらむやみに探してみるものの、
はっきり言ってお手上げ状態。どうしたらいいのか分からない。
むすめと一緒になってわりと本気で叫んでみる。
「おとーーさーん!どこー!?」「えー、ほんとわかんないよーー!」
ふと頭をよぎる。
(これって嘆願すれば帰ってくるタイプのやつなんだろうか。)
かの有名なRPGで夜明けを待つプレイヤー達のように、
声をかけながら私達も狭い家の中をクルクルと何周も回る。
そのうち、むすめはわたしの不安感を感じ取るだろうな。
何周目かで視界の角が捉えた数センチ。何かの違和感。
その瞬間、それが親しみのある気配であることが分かる。
夫が仕事部屋のドアの後ろに薄くなって挟まっていた。
何回もこのドアは開けたはずだけど、毎回開ける度に挟まってたってことか。
古典的な手法。やられた。
むすめには最後まで楽しませてあげなくちゃ。
未だ気づいていないむすめに、一緒にせーので呼んでみよっかと提案。
ドアの裏側に挟まってる夫を想像すると、さっきと同じセリフなのに、思わず吹き出しそうになる。
「おとーーさーん!出てきてー!」